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棚から1冊~『プードル・スプリングス物語』 2011/09/17

Posted by Master in From my bookshelf..
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『プードル・スプリングス物語』
レイモンド・チャンドラー、ロバート・B・パーカー 著
菊池光 訳
早川書房

「私はあなたを変えることは絶対にできない、そうでしょう?」
「ほんとうにおれを、喉を鳴らすネコのような男にしたいのか?」
(本文より抜粋)

チャンドラーの未完の遺稿をパーカーが書き継いだ、フィリップ・マーロウもの。
『長いお別れ』、『プレイバック』に登場した資産家令嬢リンダ・ローリングと結婚し、超高級住宅地にプールやハウスボーイ付きの邸宅を構えたマーロウ、と聞くだけで違和感と同時に、有名人の私生活を窺うような気分になってしまいます。
LAのダウンタウンを一人行く、ネオンの騎士…そんなマーロウが遂に結婚、しかもセレブリティの仲間入り!?

しかし当然のことながら、マーロウが妻の資産で贅沢に暮らすことを甘受するわけはなく、以前のオフィスを借りて探偵稼業を再開することになります。
単なる人捜しとして依頼された一件を追ううちに、それが殺人事件へと発展し…という王道パターンを踏襲する展開には、さしたる目新しさはありません。

調査の合間合間に触れられるリンダとの生活と二人の関係も、ある意味「こうなればいいな」という読者心理をついてきます。
破綻なく進むのも良いけれど、もう少し捻るとか、驚かせて欲しかったなぁ。
まぁ、パーカーと言えども、世界中のマーロウ・ファンを敵に回すようなお話にはできなかったのでしょう。

チャンドラーがこの作品に着手したのは1958年頃とのことだけれど、随所での描写がかなり時代を下ったように感じられるのは、原文がそうなのか訳文のせいなのか?
チャンドラーの翻訳と言えば故・清水俊二氏を第一人者に挙げる自分としては、氏ならどんな味わいになっただろうかと空想してしまいます。
菊池氏の訳文は、どことなくスペンサーものの雰囲気を感じてしまって、現代風に過ぎるように思いました。

さて、マーロウは飼いネコ生活に落ち着くのか?
一連の事件が収束したラスト、マーロウの薄汚れたアパートをリンダが訪ねてくる。
「私たちは一緒に生活できないと思う。でも、だからと言って、恋人同士でいられないわけはないでしょう?」

マーロウ・ファンには、ささやかに溜飲が下がる思いの幕引きではないでしょうか。

私的評価=★★★

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コメント»

1. 暗ヲ - 2011/09/18

英語わからないわたしみたいな人間は翻訳に頼らないと外国もの読めないわけだけど、翻訳てのが個性のある創作物だから翻訳の数だけその作品ができちゃって、複数ある場合はどれを選ぶかむつかしいであります。
面白いもので、ハヤカワのポケミスで50年代くらいのおおむかしの翻訳を読むと、古めかしい文体や表現が本の書かれた30~40年代にぴったり合ってたりするのですが、最近の翻訳された本を読むと、古い作品なのにあたかも現代が舞台であるかのように感じたりします。

Master - 2011/09/18

>暗ヲさん
「翻訳の数だけ作品がある」とは仰る通り。
訳者によって作品の趣が変わりますもんね。

チャンドラーを例に採れば、双葉十三郎氏、田中小実昌氏、稲葉明雄氏、清水俊二氏、村上春樹氏等が手掛けておられます。
初出当時と現在の、話法や風俗意識、言語感覚の違いが違和感を生む場合があるので、一概に昔がよかったとは言い切れません。
エレベーターが自動昇降機だったり、サングラスが色眼鏡とされていたりすると、若い読者には「?」でしょうし。
双葉氏訳のマーロウは「~でござる」なんて、時代がかった侍言葉で喋ります(笑)。

主人公の一人称が「俺」「私」「僕」、どれであるかによっても雰囲気や訳文体が左右されるし、こればかりは正解が無い気がします。


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