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棚から1冊~『ファイナル・カントリー』 2015/09/30

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『ファイナル・カントリー』
ジェイムズ・クラムリー 著
小鷹信光 訳
早川書房

手強い1冊でした…。
クラムリーは多作家ではありませんでしたが、その生涯に「ミロドラゴビッチ・シリーズ」と「シュグルー・シリーズ」という、二人の私立探偵を主人公にした魅力的なシリーズものを発表しました。
どちらかと言えば、個人的にはシュグルーの方が好きで、特に代表作『さらば甘き口づけ』は、登場人物・背景・ストーリー・味付けが見事にまとまっていた傑作でした。

この『ファイナル・カントリー』はミロドラゴビッチが活躍するシリーズで、初老に差し掛かった我が身(ストーリー中で60歳の誕生日を迎えます。それも入院先の病院で)を嘆きながらも、血生臭い修羅場に身を投じて、己の矜持を頼りに事件解決に奔走します。
まぁ、これだけなら「よくあるお話」レベルなのですが、十重二十重に肉付けがされていて、相当に噛み応えのあるミステリに仕上がっています。
登場人物の数が多い上に、人間関係が絡まりあい、しかも以前のシリーズから引き続き登場しているキャラクターの紹介や説明はないので、人物配置を頭に入れるだけで一苦労。
ストーリーは適当に文字だけを追っていると、あっという間に粗筋さえ解らなくなる。
しかも、結構なページ数ある長編ですので、心して読まなければなりません。

などと言うと読む前から嫌になりそうですね。
でも、そういった困難をおしてでも途中で投げ出したくなるわけではなく、背景となるテキサスの街や自然の描写、人物造形、伏線の張り方などが読む者を飽きさせません。
ミステリ入門者にはオススメしないけれど、読み応えが欲しい向きには一読の価値ありでしょう。
ただし読むならば、シリーズの順を追って、この世界観を掴んでからの方が良いと思います。

私的評価=★★★☆

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棚から1冊~『その女アレックス』 2015/08/21

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『その女アレックス』
ピエール・ルメートル 著
橘明美 訳
文藝春秋

昨年度の翻訳ミステリ界の話題をさらった作品を今更ながらに読了。
「このミス」とか「本屋大賞」とか、話題作りの賞レースは極力見ないふりをしているのだけれど(基本的に他人の推薦本は信用しないし、読む前に余計な先入観を持ちたくないし)、この作品は嫌でも評判が耳に入ってきた。
まぁ、それだけ話題になったということですね。

簡単に感想を言うならば、かなり楽しんで読めたサスペンス小説でした。
スピード感のある展開で、その展開もストーリーに没入するほどに読者を翻弄する手際の良さ。
お話はアレックスという名の女性が何者かに拉致監禁され、壮絶な環境に置かれるところがスタートになります。
ストーリーが進むに従ってアレックスと彼女を取り巻く人物たち(類型的でありながら魅力的)が、右へ左へと急ハンドルを切るように、読者を振り回して、要所での急展開に「まだ1/3も読んでないよな?」とか、「ここでこうなるの?」などという思いに読み進み具合を確認すること数回。
ラストは妙な不完全燃焼感を伴いながらも、そう来たか!という、これまた妙なカタルシスがありました。

数年前に『アリス・クリードの失踪』という映画がありましたけど、何となくそれに相通じるものがあるようにも感じた、サスペンス・エンターテインメントでした。

私的評価=★★★★

予習 2015/04/13

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『グエルチーノ』行って来ましたよ、上野東京ラインに乗って西美へ。
感想をまとめてるのですが、なんだか遅々として進まない…
えー、今しばらくお待ちくださいね。

夏にかけて観たい美術展がいくつかある中で、最も楽しみなのがサントリー美術館で開催される『若冲と蕪村』展。
17世紀~18世紀の日本の美術界はとても興味深くて、特に伊藤若冲はぜひとも実物に触れたい画家の一人です。
まだ訪問するスケジュールは調整中なので、こんなムックを購入して予習に努めている次第。

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これはロッキングオン社から刊行されているもので、今号は若冲・セザンヌ・マグリットの3本立の特集が見応えと読み応えに長じています。
興味ある方はぜひご覧になってみてください。

棚から1冊~『神は銃弾』 2014/06/10

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『神は銃弾』 God Is A Bullet
ボストン・テラン 著
田口俊樹 訳
文藝春秋社

別れた妻を惨殺し、娘を連れ去ったカルト狂信者を何としてでも見つけ出してやる!
憤怒に燃える刑事ボブ・ハイタワーは、教団脱会者にして元ジャンキーの女性ケイス・ハーディンと共に決死の探索行に出た…。

陰惨な犯行描写や救われない登場人物たち、常人の理解を超えたシチュエーションなど、かなり腹にこたえるサスペンス・ミステリです。
ストーリーそのものは単純ながら、ケイスや敵役となるカルト教団の教祖サイラスら、強烈なキャラクターと振れ幅の大きな心理描写の妙で、ラストまで飽きさせない展開に引き込まれます。

息苦しくなるような不毛さに溢れた『川は静かに流れ』 (ジョン・ハート 著)の後に続けて読んだのでお腹いっぱい。
次はもう少し軽めの作品にします。

私的評価=★★★★

棚から21冊~『スペンサー・シリーズ』 2014/01/10

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もうすぐロバート・B・パーカーの命日です。
氏の代名詞とも言えるスペンサー・シリーズは、わりと初期の頃から読んでいましたが、三十数作あるうちで読了しているのは2/3弱。
久々にスペンサー(とスーザン、ホーク)に会いたくなり、未読刊を調べるつもりで書棚を漁って見つけたのがこの21冊というわけ。
リストを作ったら、とりあえずブックオフにでも行ってきましょうか!

棚から1冊~『蝉の女王』 2013/08/01

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『蝉の女王』
ブルース・スターリング 著
小川隆 訳
早川書房

珍しくお出かけ記事が続いたので、『棚から1冊~』シリーズは久しぶりのような気がします。
NASAの火星探査のニュースを見ていたら、ふとスターリングの火星ものを読みたくなりました。
どこかにあるはず…と、崩落寸前の書棚をざっと探したのですが、あれ?見つからない。
見つからないとなると余計に読みたくなり、どうせ数百円だからもう一冊買っちゃえとネットショップを見てみたら驚いた。
スターリングの『蝉の女王』、今や絶版で古書が数千円の値段になっている!
いや、いくらなんでも数千円は出せないので再び書棚の探索に挑み、ついに発見したのでここで紹介しようと思います(意地!)。

1980年代中盤からにわかに活気を帯び始めたサイバーパンクの波のトップを走っていたのが、このブルース・スターリングとウィリアム・ギブスンの二人。
かたや『スキズマトリックス』、かたや『ニューロマンサー』とSFファンの注目を集める長編を発表して、一大ムーブメントを作っていました。
どちらかというとギブスン派だったのですが、スターリングのこの短編集は発表当時から好きな一冊でした。
「工作者シリーズ」と呼ばれる連作に序文を加えた構成で、独自の世界観を創造する故の読み難さはありますが、はまってしまえばこっちのもの的な面白さが勝っています。
個人的にどれがどうというおススメの一編は選べません。
上手さに感心したものを強いて挙げるとすればやっぱり『巣』かな。
こちらの想像を超えた生命体が登場するのですが、これは今までに読んだことのない驚きでした。
いくつもの要素を組み合わせて、それこそ「独自の世界観」をどーんと魅せてくれる技巧は、ライバル視されていたギブスンも絶賛したというほど。
もう30年も前の作品ですが、ここに描かれる様々な問題提起やテクノロジーは、改めて読み直してもなお刺激に満ちています。
ぜひ再版して欲しいものです。

私的評価=★★★★★

棚から1冊~『マジック・フォー・ビギナーズ』 2013/05/14

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『マジック・フォー・ビギナーズ』
ケリー・リンク 著
柴田元幸 訳
早川書房

『スペシャリストの帽子』でその不思議な世界観に魅入られた、ケリー・リンクのアンソロジー。
表題作をはじめ、全9編が収められています。

ごく日常的な世界を背景にホラー、ファンタジー、SF、といった味付けを、時にさりげなく、時にあざとく施して、読者を「なんだこりゃ?」的な空気に包んでしまう作品が並びます。
本書は前作よりも筆致がしっかりしている印象で、程よい新鮮味を残した好アンソロジーと言えます。

冒頭を飾る『妖精のハンドバッグ』はヒューゴー、ネピュラ、ローカスの各賞を、『マジック・フォー・ビギナーズ』はヒューゴー、ネピュラ、英国SF協会の各賞を受けており、個人的には「これがSF?」と感じてしまうものの、評価されるだけの面白さは充分にあります。
その他の収録作品で気に入ったのは、ゾンビが買い物に現れるコンビニが舞台の『ザ・ホルトラク』、魔女とその子の物語『猫の皮』などがシュールな不思議ワールド全開で良かったです。

同傾向の女性作家として、『燃えるスカートの少女』のエイミー・ベンダーが挙げられますが、ケリー・リンクの方がポップなエンターテインメント性が高く、内省的な要素も比較的薄いので読み易いのではないでしょうか。

私的評価=★★★☆+

棚から1冊~『キャンディーズ卒業アルバム』 2013/04/05

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『キャンディーズ卒業アルバム』
シンコーミュージック

今を去ること35年前、1978年4月4日にキャンディーズは後楽園球場(当時)に於いてラスト・コンサートを行いました。
当時はコンサートには行けませんでしたが、こんなムックだけは買いました。
ちょうど高校に上がる春。
本書の中で彼女たちは「青春」という言葉を使って回想していますが、自分にとっても「青春」だった(おお恥ずかしい)、思い出の1冊です。
…そんな過去もあったのさ。

内容はカラー写真、三人のエッセイ、関係者の寄稿、インタビュー、ディスコグラフィー、代表曲のコード譜などで構成され、綴じ込みのポスターが付属しています。

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本当は昨日のうちにアップしたかったんだけどなぁ。

棚から1冊~『ゴーガン』 2013/04/04

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『ゴーガン』
インゴ・F・ヴァルター
ベネディクト・タッシェン出版

2009年夏、国立近代美術館で観た『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』が忘れられない。

ゴーガン晩年の集大成的な大作は「ゴーガンの遺書」とも言われ、ヨーロッパの文明社会を嫌い人間の原初的な南洋での生活に身を置きながらも、名声をなくし金銭の困窮と病に苦しんだ彼の人生観が描かれています。
そしてこの巨大な作品を目の当たりにしたとき、「絵画は実物を見てこそ」との思いが確信に変わりました。
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もちろんゴーガンの名を知らしめた代表作は他にも数多くあります。
輪郭線と鮮やかで平面的な構成が特徴的な「ポスト印象派」の画家として、ゴッホやセザンヌと並び称される彼の画集を眺めていると、その時々の環境や生活、心情が作品上に現れているのがよくわかり、それは決してゴーガンだけに限ったことではないけれど、芸術表現というのは己自身を切り売りすることでもあるのだなと感じます。

しかし、ゴッホの耳を切ったのはゴーガンであったという説、真実はどうなのだろう?

私的評価=★★★★

棚から1冊~『ダライ・ラマ自伝』 2013/03/17

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『ダライ・ラマ自伝』 The Dalai Lama: Freedom In Exile
ダライ・ラマ 著
山際素男 訳
文藝春秋

「ダライ・ラマ」というのはチベット仏教において観音菩薩の化身とされる、僧としての最高位を表す称号です。
また宗教上の指導者であるばかりではなく、チベットにおいては政治的な指導者でもあるという立場でもあります。
本書は現職の第14世ダライ・ラマにしてチベット亡命政府ガンデンポタンの長、テンジン・ギャツォの半世紀。

チベット北部の小さな農家に生まれた子供が第13世ダライ・ラマの生まれ変わり(転生者)として「発見」され、僧としての修行や指導者としての研鑽を積み、若くしてチベットを代表する最高指導者になるまでが序盤で語られます。
中盤では1950年代、中国の人民解放軍の侵攻によるチベット制圧(破壊、虐殺、暴力、人権蹂躙、略奪)とその後の動乱、わずかな側近を率いてインドへと亡命しチベット臨時政府(後の亡命政府)の発足、中国や近隣諸国との関係や、日常生活について綴られています。
そして終盤はダライ・ラマとしての宗教観や政治観、チベット民族だけではなく世界的な平和への願いなどが、平易な言葉でまとめられており、彼の人となりに触れることができます。

チベットやダライ・ラマに関してたいした知識もないままに読み始めましたが、読了してみると自伝の体裁をとりながらもチベット民族が歩んだ苦難のドキュメンタリーでもあり、多少なりともその歴史を学べたように思いました。
正直言ってもっと抹香臭い内容なのかとも思っていたし、説教じみた文章が並んでいるのかとも思っていました。
ところがさにあらず、いたって生活感に溢れた人間味のある描写で、退屈することなく読み進むことができました。
中国の横暴な所業についても悲嘆や静かな怒りこそあれ、決して報復や恨みつらみにつなげない、仏法に則った平和的なスタンスを貫く姿勢に感動をおぼえます。

2008年3月の大規模動乱から5年、中国の施策に対しての抗議のチベット人焼身自殺は今もなお続いており、痛ましいと同時に大国の傲慢で残虐な横暴に許し難い気持ちになります。
日本は対中外交上チベットの亡命政府を行政機関とは認めていません。
それでもダライ・ラマは一昨年の東日本大震災の折には慰霊法要のために二度の来日をしました。
自分は仏教徒ではありませんが、日本人としてその心遣いに感謝したい。
ともあれ本書はダライ・ラマのポジティブな、今できること・しなければいけないことを見極めて実行する、という姿勢を読者に説いてくれる、宗教や政治を超えた大切な心構えに気付かせてくれる好著です。

私的評価=★★★★